この椅子は、宮本さんが修復を担うまでほぼ手入れされてこなかったのがかえって幸いし、明治初期の職人の技術を知る貴重な資料になった。座面の中のコイルスプリングは9巻と巻き数の多い大きなバラバネで、クッション材はヤシの葉の繊維や、馬毛(たてがみや尻尾等の毛)等が使われていた。木部について宮本さんは、内側の構造体には充分に乾かすと優れた強度と耐久性が出るケヤキを、目に触れる部分には加工性や着色性が抜群のカバを、と用途に応じて木が使い分けられていると話す。脚部の螺鈿細工は見事で、それは明治に入っても、彫金や細工に関しては、江戸時代の高い技術か息づいていたためだそう。
その他に注目すべきは張地。通常、修復の際は予算の都合上、既成のファブリックに張り替えることが多い。宮本さんも明治村の意向に沿って、この椅子の最初の修復の際はそうしたが、のちに明治村が、当初の四爪の龍の文様の裂地を復元しようと決心。現・川島織物セルコンが特注で復元した裂地で、宮本さんが再度の張り替えを行い、今に至る。