私は古い椅子の修理の仕事を、たくさんや
ってきました。修理の仕事なんてやっても食
えない、という思い込みの習慣が家具業界の
なかには永いことあって、一度もやったこと
のない不安も手伝ってか、嫌がる職人も多い
のです。それで私のところに依頼が来るのか
どうかは知りませんが、古い椅子を触ること
は新しい発見がたくさんあって、私には心踊
る仕事です。若い職人にとっても、貴重な勉
強の機会です。
いずれも明治、大正時代のものが多く、わ
が国の椅子の草創期につくられたものばかり
です。それらを解体し、中身を調べ、補強し
て、新しい布地や革に張り加える。そういう
作業をしていくうちに、私はその椅子がもっ
ている「物語」にひかれるようになりました。