張り地は「龍村美術織物」によって忠実に再現されたものを使います。
背のクッションは、馬の毛の上に綿を載せ、あらかじめ縫製した張り地をかぶせてから、ボタンの糸を下に通して固定していきます。
ボタンを使ったソファはめっきり減りましたが、そのぷっくりと盛り上がったフォルムには、他に変えられない豊かさを感じます。
縫製した張り地を馬車に取り付けていきます。馬車の内装は全て張り地で覆われ、きらびやかな空間へとドレスアップされます。
こうした伝統的な椅子張りの手法は、ルネッサンス期以降のヨーロッパで発達したのではないかと宮本さん。
明治のはじめ、その手法をゼロから覚えていったのは和家具(指物)職人ではありませんでした。
元は馬具や駕籠(かご)などをつくり、時代の変化に取り残されまいと、活路を見いだした職人達だったそうです。
宮本さんが弟子入りした芝界隈(現・新橋周辺)には、公官庁の仕事を受ける一流の職人が集まりました。
その伝統を受け継ぎながらも宮本さんは、デザイナーや自動車の椅子などを試作する日本初の「家具モデラー」として、常に時代の先端を走ってきました。