昭和六三年(一九八八)に開かれた「東京デザ
イナーズウィーク」は、フリーで活動するイン
テリアデザイナー七三名が参加したデザイナー
側からの企画展で、ポストモダン最後の時期の
展覧会ともいえる催しでした。このときは、多
くのデザイナーの作品を私の会社でも製作しま
した。展覧会の功罪はいろいろあったと思いま
すが、様々な実験ができたという点で、私には
実り多い経験でした。
梅田正徳さんデザインの椅子「花シリーズ」
も、そのときに発表されたものです。桔梗をモ
チーフにした「月苑」、蓮をモチーフにした「
浄土」、梅をモチーフにした「早春」、桜をモ
チーフにした「花宴」の四種類があって、「花
宴」は一人掛と二人掛をI緒につくりました。
とても技術を要し、難しいものでした。
切り口の違う発想
梅田さんと最初に知合ったのは、一九七〇年
代、ミラノでのことです。当時、アラブとイス
ラエルの間がすでに戦争状態でした。梅田さん
は、そんな時勢を反映して、ラクダと戦車をモ
チーフにデザインしたものなどを発表したりし
ていました。生々しいというか非常に直接的な
デザインで、思っていてもここまでやる人は、
なかなかいないという新鮮な驚きがありました。
その後、梅田さんが日本に戻ってきてから、い
くつか一緒に仕事もしていますが、それまでに
なかった感覚のデザインばかりで、そのつど随
分と驚かされてきました。あるときは、キルテ
ィングを着たような冷蔵庫の試作をやりました。
キルティングと冷蔵庫、ほど遠いふたつを結び
つける発想は梅田さんならではのものでした。
相反するものの表現の仕方と、それを機能と
共にデザインするその感覚は、私たちのなかに
なかったものです。好き嫌いをいう以前に、そ
もそも切り口がまったく違うのです。
花びらに見えるための工夫
この花シリーズも同様に驚きました。模型と
図面はすでに梅田さんがもっていましたが、蓮
の花などはデザインのモチーフとしてなじめな
いものがありましたし、「こんなもの家具にな
るかな」という不安が、まず頭をよぎりました。