私たちは「製品企画開発共創企業」であり「空間創造共創企業」です 私たちは良いものを長くお使い頂く、SDGsの「つくる責任つかう責任」に積極的に取り組んでいます

梅田正徳氏 1990年

試作開発 オーダーメイド

ソファ製作

alt="梅田正徳氏"

製作作業

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alt="梅田正徳氏"
alt="梅田正徳氏"

背アーム

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背縫製ライン

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肘アール

【「椅子づくり百年物語」( O M 出版)宮本茂紀著より】繊細に、そしてリアルに美しく 梅田正徳の花シリーズ

昭和六三年(一九八八)に開かれた「東京デザ
イナーズウィーク」は、フリーで活動するイン
テリアデザイナー七三名が参加したデザイナー
側からの企画展で、ポストモダン最後の時期の
展覧会ともいえる催しでした。このときは、多
くのデザイナーの作品を私の会社でも製作しま
した。展覧会の功罪はいろいろあったと思いま
すが、様々な実験ができたという点で、私には
実り多い経験でした。
 梅田正徳さんデザインの椅子「花シリーズ」
も、そのときに発表されたものです。桔梗をモ
チーフにした「月苑」、蓮をモチーフにした「
浄土」、梅をモチーフにした「早春」、桜をモ
チーフにした「花宴」の四種類があって、「花
宴」は一人掛と二人掛をI緒につくりました。
とても技術を要し、難しいものでした。

切り口の違う発想
 梅田さんと最初に知合ったのは、一九七〇年
代、ミラノでのことです。当時、アラブとイス
ラエルの間がすでに戦争状態でした。梅田さん
は、そんな時勢を反映して、ラクダと戦車をモ
チーフにデザインしたものなどを発表したりし
ていました。生々しいというか非常に直接的な
デザインで、思っていてもここまでやる人は、
なかなかいないという新鮮な驚きがありました。
その後、梅田さんが日本に戻ってきてから、い
くつか一緒に仕事もしていますが、それまでに
なかった感覚のデザインばかりで、そのつど随
分と驚かされてきました。あるときは、キルテ
ィングを着たような冷蔵庫の試作をやりました。
キルティングと冷蔵庫、ほど遠いふたつを結び
つける発想は梅田さんならではのものでした。
 相反するものの表現の仕方と、それを機能と
共にデザインするその感覚は、私たちのなかに
なかったものです。好き嫌いをいう以前に、そ
もそも切り口がまったく違うのです。

花びらに見えるための工夫
 この花シリーズも同様に驚きました。模型と
図面はすでに梅田さんがもっていましたが、蓮
の花などはデザインのモチーフとしてなじめな
いものがありましたし、「こんなもの家具にな
るかな」という不安が、まず頭をよぎりました。

alt="愛知県明治村"

浄土W950×D950×H530

alt="愛知県明治村"

月苑W1100×D860×H820(SH420)

梅田正徳
昭和一六年(一九四一)~ プロダクト
デザイナー。神奈川県生れ。桑沢デザイ
ン研究所卒業。昭和四一年イタリアに渡
り、カスティリオーニ事務所、オリベッ
ティの顧問デザイナーを経て帰国。プロ
ダクトからインテリアまで幅広くデザイ
ンしている。

とはいっても、やってみるしかありません。
いざつくってみると、桔梗の花などはバナナ
の集まりみたいになってしまいました。花に
見えないのです。花がもっている繊細な感じ
をリアルに表現するためには、花びら一枚一
枚を先にいくほどもっと薄くして、実際の形
に近付ける必要があることに気付きました。
そうなると、強度の問題や構造に工夫がいり
ます。デザインの意図をできる限り表現し、
かつ椅子としての強度と坐り心地を実現させ
る試行錯誤が始まりました。何しろ今までや
ったことがないものをつくるのですから、苦
心しました。
 結局、桔梗の脚のところはガス管で強度を
もたせ、背のところは合板に金属を取付けて
クッション性を出し、その先は下敷のような
樹脂を芯にして薄さを出しました。先端はそ
れこそ五ミリくらいの、ペラペラした感じに
しないと、花びらに見えないのです。しなや
かでないといけないわけです。座面の雄しべ
雌しべを表わした三本の筋は、住友スリーエ
ムがその頃試作していた特殊強力マジックテ
ープを試しに使ってみました。蓮の花も、花
びらはできるだけ簡略化したいと思いました
が、結局一枚一枚にこだわってつくらないと、
それらしく見えません。イメージに合う張地
を探すのにも随分と苦労しました。梅田さん
からは「神々しいビニール」という注文が出
ていたからです。
 梅の花は、玉縁のようなもので花びらの間
を押えて、仕上りはきれいなのですが、坐る
とお尻がはまってしまうので、その調節に苦
心しました。最後につくったのが桜でした。
これまた花びらの薄さにこだわったがために、
坐ると花びらの間に人が挟まってしまって、
展覧会の前の日まで手こずりました。

賛否両論、感想いろいろ
そんなこんなで、ニカ月間はこの製作にかか
りっきりで時間を費やしました。期限は迫っ
てきますから、考えこんでいる暇はありませ
ん。つくるための方法は夜ふとんに入ってか
らあれこれ考え、昼間はとにかく手を動かし
ました。

 あの展覧会にはたくさんの家具が出品され
ましたが、張りぐるみの椅子は少なかったう
えに、このシリーズはそれまでのやり方では
つくれない椅子でした。「張る」という作業
の、新たな難しさや問題点を発見しました。
終了してから、賛否両論の感想が聞けて面白
かったのも、この椅子ならではのことでした。
あんなもの、という人やどうやってつくった
のか知りたがる人など様々でした。女の人に
人気があったようです。
このシリ廴スはその後、蘭をモチーフにした
「オーキッド」など新たなものを加えて、イ
タリアのエドラ社から商品化されました。日
本には現在イタリアからの輸入品として一部
は市場に出ています。ただ、イタリアのもの
は、スチールで型をつくり発泡ウレタンの布
を被せているようで、肝心の花びらのところ
が「バナナ状」になってしまっています。今
ひとつ花らしさが出ていません。細かい手が
こんだ作業は、やはり日本人の方が要領がい
いようです。

alt="愛知県明治村"
alt="愛知県明治村"

花宴
1人掛W750×D690×H700 (SH400)
2人掛W1230×D680×H720 (SH400) 

alt="愛知県明治村"

早春W500×D475×H950 (SH730)

alt=" 梅田正徳氏"

「月苑」のポイントは、花びらの先にいくほど薄くなる感じ。花びら同士をつなげるのにも苦心した。坐ってみると、すっぽり包まれたようで心地いい。

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