一〇年以上前から、自動車メーカーからの
依頼で、自動車シートの開発に携わっていま
す。私自身、運転もします。若い頃は走るこ
とに興味があって、シートの坐り心地には関
心がありませんでした。やはり四〇歳を過ぎ
て、運転をしていて疲れを覚えるようになら
ないと、そこまで考えが及びませんでした。
そういう視点で開発を続けてくると、時代
によって、また国によって、シートに対する
取組みが違っていることがわかってきました。
一〇種類ほど分解
開発を始めて数年経ってから、研究のため
に、内外の「高級車」といわれる車種のシー
卜をI〇種類ほど分解したことがあります。
その国のものづくりに対する考え方が、よく
現れていることを実感しました。
例えばキャデラック。いかにもアメリカの
つくり方で、シートはふわふわとしていて一
見豪華。けれど中身はウレタンの塊で大味、
粗雑でした。
一方ベンツは、古い型も新しい型も、それ
ほどつくり方を変えておらず、コイルスプリ
ングを使い、パームロックと、それを成型し
たもので縁をつくった頑丈なものです。ウレ
タンも使っていますが、それはあくまで形を
整えるためです。体に当たるところの表面に
は、日本で「くろわた」と呼ばれる、古い布
を回収して再生したものを使っています。縁
を頑丈にしているのは、急ブレーキをかけた
ときの衝撃で、お尻がすべり出してしまうの
を防ぐためです。丈夫で安全なこと、そして
再生した材料や天然材料を使うという姿勢も、
ドイツ車らしい印象でした。
わが国のトヨタの「セルシオ」は、コイル
スプリングを使っている点では、ペンツとよ
く似ていました。ただこのコイルがベンツよ
りも太くて柔らかい。ビニールコーティング
したコイルスプリングだからで、こうすると
衝撃を和らげることができます。クッション
材にはウレタンフォームを使っていて、ここ
がベンツと大きく違うところでした。
これから求められるもの
そんなことがあってから約一〇年ほどの間
に、自動車シートのつくり方は、大きく変わ
ってきました。ペンツも含め中級車以上が、